ナイフ 重松清の短編集。
 5編の主人公らはいじめにあっている、またはそれを傍観している立場にある。どれもが両者の苦しさ、やりきれなさを残酷なぐらい書ききっている。
 「ワニとハブとひょうたん池で」を読んで、自分も中学のとき同じようないじめにあったことを思い出した。標的にされるのも突然で、終わりがくるのも突然。たまたま投げられた石に当たってしまうぐらいの確率で「いじめられっ子」になってしまう皮肉さ。親や先生に言うとなんとなくヤバいし、チクったという事実が今よりもいじめはもっとひどくなるんじゃないかという危機感。そしてその行動をしてしまった自分のみじめさが嫌になる。逃げ場のない教室の中では、ひたすら耐えるということしか方法を思いつかなかった。
 でも、主人公らはひたむきにふんばっている。前をむいて歩いている。「エビスくん」は51番その姿が強く現れている。一生懸命な姿に「もうええやんか」と声をかけてあげたい。それでも最後までくじけずまっすぐで純粋な姿に胸がいっぱいになる。

 どの物語のラストも、暖かさをほんのりとふくんだ感じがある。そして言葉の1つ1つの中に「前を向いていけば大丈夫。自分を信じて」という著者からのメッセージがいっぱいつめこまれている。
私が中学生のときにこれを読んでいたら、もうちょっと前向きにあの頃を過ごせていたかもしれない。

アシュラ
 

※ネタバレ注意※


 発売したのは1970年代。その当時に不買運動が起こってしまったというジョージ秋山のマンガが復刻された。
 中世の日本。大飢饉に見舞われた村で人肉を食べて生きのびてきた女性が男の子を産む。その子もまた、当たり前のように人を殺しては肉を食べて生きる。数年後、豊かな田園を耕し暮らす村の人々は彼の行動を極悪非道だとののしり、怒った。なぜ文句を言われるのかわからない幼い彼。気が狂った母親は我が子を「アシュラ」と呼んだ。しかし、その村も数年後に水がひからび、田畑は痩せて食料飢饉に…。
 アシュラは成長していくにしたがって言葉を覚え、たくさんの悲しい体験からやさしさや慈悲、喜びなどを少し学び始め、自分の寂しさ苦しさを訴える。でも最終的に彼の中に残ったのは、自分を食べようとした母親の記憶と、憎しみと復讐だけしかなかった。

 「生きること」と「食べること」は人間の本能だ。
 そこに理性がくっついて社会が作られ、それに順応して生きる。アシュラはその理性の部分が全くない男の子。だから本能に忠実に従って行動して生きていくしかない。
 本能に忠実に生きることは間違っていない。動物はみんなそうだから。
 ただ人間は、本能だけでは、今の社会では生きていけない。
 そんなあたりまえだと思っていることをこのマンガは完璧に覆す。
 だから今読んでも衝撃はかなり高い。
 
 どっちが幸せなんだろう。
 「本能のまま生きること」と「理性をもって生きること」。
 そんなことを考えさせられてしまう。

ハピネス


※ネタバレ注意※


ガロ出身の漫画家、古屋兎丸の短編集。


 悪魔に恋する女子高生「あくまのうた」、一途に雲を信じて生きる女の子爐◆爾鍬瓩諒語「雲のへや」、幼なじみ男の子2人の恋と友情「インディゴエレジィ」など含め8話の主人公たちは素直で、自分の好きなことに正直で従順だ。だからそれしか見えず、それを利用しようとする、さえぎろうとする人たちに翻弄される。
 騙されてもけなされてもバカにされても、信じたものを胸に大事に抱えて立ち上がり前を歩く姿は、見ているこっちが切なくて苦しくなってしまう。だから読み終わった直後は、もう読めないなと思った。
 
 でもよく考えてみると、本当は「まぶしくてうらやましい」から読みたくないと思ったのが本心かもしれない。いつのまにか好きなことを信じること、それを信じる自分もあきらめていく。情けない状況を私は認めてしまっているのが嫌でもわかってしまうから。
 でも確かに、主人公らのような時間を生きたはずだ。
 「見栄」におびえたり、「世間」「常識」といわれるものにぶつかってケガをして、嫌になって悔しい思いをしても笑っていけたことがあったはずだ。

 これからもきっと何回もこの本を読んでしまう。
 青臭くて、純粋に「好き」な何かを信じていた自分がいたことを忘れないように。それを今の自分の中にもう一度その気持ちを大事にさせるために。


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